Sugano ORGANICの肌着に欠かせない、色を染めない綿。その糸の物語をたどると、一人の女性に行き着きます。オーガニックコットンの先駆者、サリー・フォックスさんです。
今回、Sugano ORGANIC の制作現場にサリーさんをお迎えするという長年の夢が叶い、じっくりとお話を伺うことができました。
色を染めないという選択に込められた理由、困難を乗り越えてきた歩み、そして未来への夢まで。
サリーさんと過ごした時間は、素材そのものの魅力を活かすという、私たちが大切にしているものづくりの原点を改めて感じるひとときでした。
「自然が生み出した恵みを、そのままに届けたい」
そんな思いをかたちにしてくれるのがオーガニックカラードコットンなのです。
自然が育てた色を、そのままに
写真提供:大正紡績
私たちSugano ORGANICが大切にしているのは、できる限り素材に手を加えないものづくり。
一般的に知られている綿は白色ですが、カラードコットンは、茶色や緑色などの自然な色味を持っています。
これらの色は綿花がもともと持っている色素によるもの。白色・茶色いずれも古くからある綿の種類で、白は染色のしやすさや繊維の扱いやすさから、品種改良が進められてきました。
そんな中で、自然の色を活かす道を選んだのが、生物学者でオーガニックコットンの先駆者であるサリー・フォックスさん。彼女の情熱が、自然の色を持つコットンを有機農法で育て、オーガニックカラードコットンを世界へと広めてきました。
写真提供:大正紡績
幼い頃から手紡ぎに親しんでいたサリーさんは、高校時代に出会ったケニア出身の先生の導きで、生きものや自然の力を活かした農業に関心を持ちます。昆虫などを利用して農薬の使用を減らす仕組みに惹かれ、生物学の道を志すようになりました。
学生時代には、手紡ぎや手織りを続けながら教室も主催。そこで教室に通っていた生徒の家族が、染料に含まれていた重金属の影響で健康を害し、のちに命を落としたという出来事を知りました。
調べを進めるなかで、農薬と染料が同じ会社によって作られていたことも知り、サリーさんは「自分のものづくりに染料は使わない」と心に決めます。
そしてあるとき、茶綿の突然変異からできた緑綿に出会ったことで「まだ見ぬ新しい色が生まれるかもしれない」という神秘的な体験をしたサリーさん。その瞬間、「残りの人生をオーガニックカラードコットンに捧げよう」と決意しました。
写真提供:大正紡績
困難の中で守り続けたもの
1985年、サリーさんはまだ価値を認められなかった茶綿を自ら品種改良し育てました。
白綿を育てる農家からの反発や、アメリカ国内の製造業の衰退。1990年代、国内の製造業が一斉に海外へと流れたことによって市場は急速に消えていく。
「本当に希望を失いかけた時期もあった」とサリーさんは振り返ります。
そんな困難な時代の中でも、コットンが私を支えてくれた、自ら編んだ靴下や服が勇気をくれた。
この道を続けてこられた理由は、ひとりの研究者として、オーガニックカラードコットンの可能性を誰よりも信じているから。
そして世界中の誰も研究していないこの分野を自分が守り育てていくしかないという使命感。
「まだ誰も見たことのない色や、新たな価値を生むかもしれない」
そんな未来への希望こそが、今日までサリーさんを突き動かしてきました。
サリーさんが強い想いを胸にいくつもの困難な状況を乗り越え、守り続けてきたからこそ、私たちは安心して肌に触れるものを作ることができるのです。
色を染めないことで生まれる強さとやさしさ
Sugano ORGANICの製品に使用している生地は、米国カリフォルニア州のVRESEIS LIMITEDとの提携により、ニューメキシコ州で生産された「FOXFIBRE®/フォックスファイバー」という有機栽培のオーガニックコットン。
私たちが大切に使い続けてきたサリーさんのコットンは、染色による糸の強度低下を防ぎ耐久性が高く、ウールのようなしなやかな弾力性があり、くたびれにくく、燃えにくいという特徴があります。
そして身につけた時、なんだか元気になれる気がするのです。
肌に直接触れるインナーウェアは、目には見えないけれど、心を支えるような存在でありたい。だからこそ、私たちも背景にある人々の想いを大切にしながら、ものづくりを続けています。
ものづくりを超えて、人をつなぐ糸
サリーさんが育てた特別な種から始まり、ニューメキシコ州の農家ドーシーさんが大切に育て、大阪の大正紡績さんが丁寧に糸へと紡ぎ、最後に私たちの手で肌着として仕立てます。
サリーさんとニューメキシコ州アルバレス農場のドーシーさん
写真提供:大正紡績
農場はニューメキシコ州ラ・ユニオンの高地にある土地で、昼夜の寒暖の差が激しく、収穫期にほとんど雨が降らない、綿花栽培に恵まれた気候風土を持つ地域。コットンだけではなく飼料などすべての作物をサステナブルな有機農法で行う。
サリーさんと大正紡績の近藤さん(右)
オーガニックカラードコットンを唯一受け入れたのが大正紡績
写真提供:大正紡績
「オーガニック」という言葉だけが先行し、本来大切にされるべき農家や工場での働き方、染料の扱いなど、その背景やプロセス全体には十分な光が当たっていないとサリーさんは言います。
本当に大切なのは、育てる人、糸にする人、形にする人、使う人...すべてが支え合い、想いをつないで生まれるものづくり。
「コットンそのものより、それを形にする人たちの存在こそが大事だと思っています。」その言葉のとおり、この綿は、人と人を結ぶ糸でもあるのです。
関わる人々の糸に込められた想いが、形になっていく。だからこそ、この肌着を手に取ったとき「よし、今日も頑張ろう」と思える力が生まれるのだと、私たちは信じています。
身につけたときに「Keep going」(もう少しだけ前に進もう)と思わせてくれる。
それこそがサリーさんの綿が私たちに届けてくれる、本当の価値なのかもしれません。
最後に「人間が植物や動物と、本当に会話ができるようになること」が彼女の心からの夢だと微笑んでくれました。
これからも、私たちの原点として
Sugano ORGANICにとって、サリーさんの綿は単なる「素材」ではありません。ものづくりの原点であり、これからも大切に育てていく“想いの種”です。そしてこの先の未来でも、「人と自然が調和する」というサリーさんの夢に寄り添いながら、色を染めない、けれど深い色をもったものづくりを続けていきます。
「Fibers can hold Love.」(糸は人の想いを運ぶ)
その言葉を胸に、これからも皆さまの毎日にそっと寄り添う肌着を届けていきます。
文:山本 真由
編集:森 裕香子
写真:石之 美佳、森 裕香子